- Good Quality -
山梨を拠点に「甲州」と「マスカット・ベーリーA」という日本の葡萄2品種に特化したワイナリーがこの「98wines」。商品ラインは上から「穀」「芒」「霜」という3ラインで展開されますが、中央レンジとなる「芒」は品種の面白さを最大限引き出すラインで、造り手のスタイルを一番表現できているアイテムだとも言えます。
2023年ヴィンテージは、前年の2022年と同じように雨が少ない作柄だったものの、それでもまとまった雨が降ることもあり、40年以上ワイン造りを行ってきたオーナー兼醸造家の平山繁之を持ってしても「今までで最も良いヴィンテージ」と言える程の作柄だったようです。仕込みの方法もかなり変わっていて、10月中旬に収穫した甲州をホールバンチプレス(全房圧搾)し、デブルバージュ(澱引き)せずにそのまま発酵、さらに発酵中盤に差し掛かった頃に今度は除梗した甲州を20%加えて、7ヶ月間の果皮浸漬を行っています。
全体像としては同じ芒のマスカット・ベーリーAと同様に品位を感じる精緻さが印象的で、整った表情と格式を有する落ち着いた立ち振る舞いとなっています。そういう意味においては生産者の個性とスタイルが明確に具現化されているとも言えます。テクスチャとしてはやや微発泡感が残っている傾向にはありますが、甲州らしいグリ的な苦味がほどほどに感じられ、長期間の果皮浸漬による効果がしっかりと感じられるものの、それでもオレンジワイン系のようなスタイルとは全く異なり、柑橘系の風味を主体とした凛とした佇まいを持つ従来の甲州らしい白ワイン像がしっかりキープされています。輪郭は明確で適切な骨格を持っていますが、ボディ内部は思いのほか軟質で適度なボリューム感もあり、少し果実の甘味も感じるものの、全体を通したバランス感は非常に良好です。作柄の良さに加え、化学肥料や酸化防止剤を使用せず、葡萄そのものの個性を引き出す造り手のスタイルが明確に形になっているので(とは言え所謂自然派的なスタイルではなくむしろ対極に位置するようなスタイル)、素直に甲州の良さを感じることができます。
(2025/10)